会計Ver11. 「企業買収における純資産価格方式の落とし穴 ──簿外債務をどう見抜くか」
- shigenoritanaka3
- 4月29日
- 読了時間: 5分
2026/04/29
お読みいただきありがとうございます。
今回は企業買収における企業価値算定についてのお話です。
企業買収における株価算定には、一般的に次の3つの方式があります。
A:配当還元方式(小規模企業向け)
B:純資産価格方式(中小企業向け)
C:類似業種比準方式(上場企業に近い企業向け)
中小企業では B の純資産価格方式 が採用されることが多く、 今回はこの方式に絞って整理します。
1. 純資産価格方式とは
純資産価格方式は、次の非常にシンプルな考え方です。
株価 =(時価評価後の純資産)÷ 発行済株式数
純資産 = 総資産 − 負債
一見すると分かりやすい方式ですが、 問題は “純資産の中身” にあります。
帳簿の純資産は、 在庫の減損未処理、固定資産の含み損、貸倒引当金不足、退職給付未計上、受注損失などにより、 実態と差が生じる可能性があります。
なお、中小企業の株価算定では、どの評価方式を用いる場合でも「買収価格と税務上の純資産価格(NAV)の関係」に注意が必要です。 買収価格 > 税務上の純資産価格 の場合は問題ありませんが、逆に 買収価格 < 税務上の純資産価格 の場合は “安く買いすぎた” と判断され、買い手側に課税が発生します。 また、買収価格 > 税務上の純資産価格 の場合、その差額は税務上の「のれん」として認識され、5 年で均等償却されます。 中小企業 M&A では、評価方式にかかわらず、この税務上の取り扱いを踏まえて検討することが重要です。
2. 中小企業で注意すべき「簿外債務」の典型例
純資産方式では、帳簿に表れにくい負債への注意が欠かせません。
① 受注損失(赤字案件)
工程遅延
追加工事の多発
クレーム対応の長期化
無償対応の慣行
② 保証対応の潜在負債
長期保証
無償修理の慣行化
③ 労務リスク(未払い残業代)
みなし残業超過
サービス残業
④ 退職給付債務の未計上
規程があるのに未計上
慣行として支給している
⑤ 在庫の実質価値ゼロ(減損未処理)
長期滞留
不良在庫
⑥ 売掛金の実質貸し倒れ
長期滞留
取引停止先
⑦ 税務リスク
消費税未納
源泉所得税未納
過年度否認リスク
3. 帳簿から見抜けるもの/見抜けないもの
✔ 帳簿から確認できるもの(税理士の専門領域)
固定資産(土地・建物)の時価評価
減価償却の過不足
貸倒引当金の不足
在庫の評価方法
税務申告書の整合性
税理士は税務基準に基づく確認の専門家であり、 純資産方式に必要な領域で大きな役割を果たします。
✔ 帳簿からは見抜けないもの(実態評価の領域)
受注損失(赤字案件)
工程遅延・追加工事
保証対応の慣行
未払い残業代
組織の空気
経営者の意思決定の質
顧客との関係性
現場の“本音”
税務と実態評価は目的が異なるため、 双方の視点を組み合わせて確認していくことが重要です。
4. 簿外債務をどう見抜くか(実務的手法)
簿外債務そのものではなく、 それを見抜くための手段 を整理します。
① 営業へのヒアリング(非公式)
目的:受注損失(赤字案件)の“確定事実”を把握する
当初見積より工数が増えている部分
追加工事が既に発生している案件
顧客クレーム対応が続いている案件
仕様変更や値引き要求が発生している案件
② 技術・サービス部門へのヒアリング
目的:工程遅延・保証負担の“実態”を把握する
現場トラブルと復旧工数
当初計画より工数が増えている工程
保証対応が続いている案件
無償対応が慣行化している案件
③ 現場の空気を読む
目的:数字に出ない“危険信号”を掴む
案件を嫌がる雰囲気
工程遅延の常態化
追加工事の多発
④ 経営者の意思決定の質を見る
目的:簿外債務が“隠されている可能性”を判断する
数字の把握度
問題を隠す傾向
組織の透明性
5. 税理士と実態評価の役割分担
実際の企業価値算定は、最終的には税理士が税務基準に基づいて判断することが一般的です。 一方で、受注損失や労務リスク、保証対応の慣行など、帳簿に表れにくい領域は、現場の実態を踏まえた確認が欠かせません。
税務と実態評価は目的が異なるため、双方の視点を組み合わせることで、より安全な買収判断につながります。
6. 買収前の実態把握を、PMI・経営改善につなげる重要性
中小企業の M&A では、買収前の調査、買収後の統合作業、その後の経営改善が それぞれ別々に扱われることが少なくありません。
しかし、本来これらは一つの流れとして捉えるべきものです。 買収前に把握した課題を、買収後の PMI や経営改善につなげていくことで、 調査で終わらない改善が可能になります。
7. まとめ
中小企業の株価算定では純資産方式が用いられることが多い
帳簿上の純資産と実態の間に差が生じる可能性がある
特に、受注損失や労務リスクなど帳簿に表れにくい項目は注意が必要
税務基準と実態評価は目的が異なるため、双方の視点を組み合わせることが重要
買収前の実態把握を PMI・経営改善につなげることで、調査で終わらない改善が可能になる
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Metric Japan では、買収前の調査、買収後の統合作業、その後の経営改善までを 一つの流れとして支援できる体制を整えています。 分断されがちなプロセスを一貫して扱うことで、買収前に把握した課題を 買収後の改善につなげることが可能になります。 こうした一連の流れを重視される場合は、下記までお問い合わせください。
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