日本-西欧文化違いVer09. 「SBTi と社用車 BEV 化」- 欧州 HQ と日本現場の“すれ違い”をどう解いたか
- shigenoritanaka3
- 4月13日
- 読了時間: 6分
更新日:5 日前
2026/04/13
お読みいただきありがとうございます。
今回は社用車BEV化方針をめぐるゴタゴタについてのお話です。
2024 年の年明け早々、欧州の HQ から突然通達が届きました。 内容は「社用車を BEV化すること」「※SBTi の観点から早急に対応すること」というもので、日本側の事情には触れられていませんでした。
※SBTi(Science Based Targets initiative)とは、 企業が温室効果ガス削減目標を「科学的根拠に基づいて」設定するための国際的な枠組みです。 私が勤めていた外資企業も比較的早い段階で加盟しており、 その影響で社用車の EV 化などがグループ全体の必須テーマになっていました。
正直に申し上げると、この通達は私にとってかなりフラストレーションの溜まる内容でした。 現場の実態を知らないまま一方通行で降りてきた印象が強かったためです。
1. 欧州 HQ の“理念ドリブン”文化
欧州企業では、SBTi や BEV 化は「やるべきこと」というより、 「やって当然のこと」 と捉えられているように感じます。
ESG
カーボンニュートラル
ステークホルダー資本主義
こうした理念が経営の中心にあり、 「正しいことをする」という価値観が強く根付いているように思われます。
そのため HQ の担当者は、純粋に「当然のことを求めている」という感覚で通達を出しているように見えました。
一方で、理念が強い分、現場の実務を想像する文化が比較的弱いようにも感じます。
2. 中国は“国家ドリブン”なので BEV 化が一気に進む
欧州 HQ がよく引き合いに出すのが中国です。
実際、中国では通達が出るとすぐに動きます。
社用車は短期間で BEV 化
充電器も大量に整備
現場は「やるしかない」
行政もスピード感を持って動く
こうした背景を見ると、 国家が方向を決め、企業が従う文化 が BEV 化を後押ししているように思います。
欧州 HQ はこのスピード感を基準にしているため、 日本の動きが遅く見えてしまうのかもしれません。
3. 日本の“現場ドリブン”文化では BEV 化は簡単ではない
日本のサービスカーは、単なる移動手段ではありません。
工具を積む
長距離移動が前提
山間部や工業団地を走る
1 日の走行距離が長い
充電インフラが不足
故障時の代替が効かない
こうした事情を踏まえると、 現場の実務を考えると BEV 化は現実的ではない場面が多いと感じます。
私は HQ に対して、
「サービス品質を維持できない可能性があります」 「現場の運用が成り立たなくなる懸念があります」 「日本の電力は石油を燃料に使う火力発電が多いのでBEV化は日本ではサステナビリティに逆行する可能性が高いです」「日本はHVの普及率が高く、世界のどこよりも車の温室効果ガス発生削減に貢献してきています」
と説明しましたが、理念が先にある文化では、 こうした現場の事情が伝わりにくい印象がありました。
4. すれ違いのピーク:
欧州 HQ:「日本はやる気がないのでは」
日本現場:「無理なものは無理です」
この時点で、文化的なすれ違いが最も大きくなっていたように思います。
欧州 HQ:理念ドリブン
中国:国家ドリブン
日本:現場ドリブン

同じ「BEV 化」という言葉でも、 背景にある文化が異なるため、議論が噛み合わなくなるのは自然な流れかもしれません。
5. そもそも HQ は「BEV 以外は認めない」文化だった
欧州 HQ の前提は非常に明確でした。
● BEV(Battery Electric Vehicle)
=唯一認められる社用車
エンジンなし
バッテリーとモーターのみ
走行中の CO₂ 排出ゼロ
SBTi 的に最も“正しい”選択
● PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)
=HQ から見ると「結局エンジン車」
エンジン+モーター
EV 走行できても、長距離ではエンジン稼働
日本の現場には最も実務的だが、HQ は評価しない
● HV(Hybrid Vehicle)
=完全に combustion engine
エンジンが主、モーターは補助
日本では実務的に最も普及
HQ から見ると「EV ではない」
Group の立場は一貫しており、 「内燃機関(combustion engine)を搭載している時点で対象外」 という理念に基づき、BEV 以外は選択肢として認めない方針でした。
日本側としては実務上 PHEV/HV が最適であることを理解しつつも、 欧州側は「BEV こそ唯一の正しい選択」という価値観で議論を進めていたため、 両者の前提が根本的に異なり、調整が非常に難しい状況でした。
6. 私が選んだ“落としどころ”:個人リース 100% 会社負担
最終的に私は、次のような折衷案を提示しました。
「会社名義の車が SBTi の対象になるのであれば、 社員に個人名義でリース契約を結んでもらい、 その車両を 100% 会社使用とする前提で、 費用の 100% を会社が負担する契約を個人と会社の間で結べばよいのではないか」
この案には、いくつかの意味がありました。
① 欧州 HQ の“理念”を満たす
個人名義の車であれば BEV でなくてもよい
SBTi の報告対象外となる
ESG の体裁も保たれる
② 日本の“現場”を守る
従来通りの車を使える
工具も積める
長距離移動も可能
サービス品質を維持できる
③ グループ全体の“メンツ”も保てる
「会社の資産ではない」という事実が HQ の論理を満たす
日本側は実務を維持できる
私は HQ に対して、
「会社の資産でなければ SBTi 的にも株主的にも問題はないように思います。 日本としては現場が止まらず、サービス品質も維持できます。 どこに問題があるのでしょうか。」
とお伝えしました。
この説明をしたところ、HQ からの反論は特にありませんでした。 理念文化では、体裁が整えば議論が収束する場面もあるように感じます。
7. おわりに
今回の件を通じて痛感したのは、SBTi や BEV 化は技術の問題ではなく、 政治的な前提が一方的に流れ込んでくるテーマだということでした。
欧州 HQ は「BEV 以外は認めない」という政治的な要請を背負っており、 日本の現場は「BEV では業務が成り立たない」という現実を抱えている。 どちらも間違っていないのに、前提がまったく噛み合わない。
この“前提の非対称性”をどう埋めるか。 それが、海外 HQ と日本現場の間に立つ人間に求められる仕事なのだと、改めて感じています。
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本稿で触れたような、 海外 HQ と日本現場の“政治的背景の違い”や、 SBTi・EV 化を含むグローバル施策の実務対応については、 企業ごとに状況や制約が大きく異なると感じています。
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