経営・リーダーシップVer06. 「日本企業が出資する ASEAN の大規模鋳造工場での PMO ケース」 ― HQ と現地の意思決定ギャップをどう埋めたか ―
- Shigenori Tanaka

- 3月28日
- 読了時間: 4分
2026/03/28
今回もお読みいただきありがとうございます。
今回は海外PMO(Project Management Office)案件のお話です。
コロナが明ける直前、私は APAC 社長(私の直属上長)の指示で急遽インドネシアへ飛びました。 目的は、売上が低迷していた現地代理店の受注支援です。本来この地域は中国が直接指導する体制でしたが、当時中国はロックダウン下にあり、動けない状況でした。そのため、日本代表であった私に依頼が回ってきました。
2022 年、代理店代表とともに 14 社を訪問したところ、顧客の多くは日系の鋳造工場であり、その中には日本企業が出資する ASEAN の大規模鋳造工場(某社) も含まれていました。そこで、かつて日本が据え付けた冷却ドラム(ブランドは海外本社、製造は中国)の補修について相談を受けました。
HQ と現地のギャップ:補修したい顧客 vs 新品を売りたいHQ
私はこの相談を中国および欧州本社へ報告しましたが、返ってきた答えは明確でした。
「顧客が仕様以上の量を投入しているため運用の問題」
「補修は不可能。キャパの大きい新品を購入してもらうしかない」
一方、顧客は新品交換の意図はなく、補修・補強で対応したいと強く主張。 代理店も私も完全に板挟みとなりました。欧州本社の営業・サービスにも相談しましたが、回答は同じく「対応不可」。 このままでは顧客の信頼を失い、現地代理店も立ち行かなくなる状況でした。
欧州本社へ飛び、専門家から“実証済みのソリューション”を引き出す
私はリモートでは埒が明かないと判断し、欧州本社へ直接飛びました。 そこで冷却ドラムの専門家を捕まえて話をしたところ、状況が一変します。
某ドイツ高級車メーカー向けに似たケースへの対応事例があり、10 年以上問題なく稼働中
イタリア製部品を使い、特定の図面通りに補強すれば対応可能
「自分の発明ではなく、他社で実証済みのソリューション」
つまり、HQ が「不可能」と言っていた補修は、実は可能だったのです。
リモートで顧客にコンセプトを伝え、PMO を正式に依頼される
私はこのソリューションを持ち帰り、図面+手書きで補強コンセプトをリモートで代理店及び顧客に説明。 顧客はすぐに前向きな反応を示しました。
顧客側の責任者は英語が話せない日本人であったため、 施工完了までのプロジェクト取りまとめ(PMO)を私に正式依頼 されました。
受注〜検収までの全工程を PMO として設計・管理
私は以下の全工程を一つのクリティカルパスとして設計しました。
欧州本社からの見積取得
現地代理店向け見積受注支援
イタリアサプライヤーによる部品製造出荷
インドネシア代理店側の制作物設計・製作完了
重機手配
海外専門家の現地入り(事前調査&据付時指導)手配
ラマダン期間中に補修・補強を完了
検収
そして、毎週、欧州本社・代理店・顧客とリモートで進捗確認を実施。 完全リモートでの PMO でした。
物流遅延とラマダンの壁:最大の危機
当時はコロナ期で物流が混乱し、イタリアからの部品到着が大幅に遅延。 ラマダン期間中の完了が危ぶまれました。
私は現地代理店に対し、
通関との事前折衝
引き取りの前倒し
現地作業の段取り再調整
を指示し、なんとかラマダン期間内でプロジェクトを完遂させました。
正直、生きた心地がしなかった
プロジェクト期間中、顧客からは 土日・夜中を問わず電話 が入り、 常に強いプレッシャーを受け続けました。代理店から「完了しました」と報告を受けるまで、 本当に生きた心地がしませんでした。
そして、すべてが報われた瞬間
私が退職する際、顧客と話す機会がありました。 そのとき言われた一言が忘れられません。
「田中さん、補修されたドラムは絶好調です。」
HQ が「不可能」と言った案件を、 現地・HQ・代理店を巻き込みながら PMO として成功させた瞬間でした。
Executive への示唆:PMO の本質とは何か
この案件が示したのは、PMO の本質が単なる“調整役”ではなく、
HQ と現地の 意思決定プロセスの翻訳者
技術・文化・組織政治の 三重構造を理解する存在
誰も責任を取りたがらない領域を 前に進める推進力
であるということです。
海外投資において、PMO の質は成功率を大きく左右します。 このインドネシア案件は、その象徴的なケースとなりました。
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*尚、今年9月はGIFA Indonesia訪問に加え、現地でのお客様を複数訪問させていただく予定です。
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